ドイツの規制改革と行政評価


参議院予算委員会で国家戦略特区に関する質疑が行われたように、既得権益打破を試みる政治家にとって、規制改革は最大の関心事です。
規制改革や行政評価を議論する際に、英語圏における規制改革の情報はしばしば耳にしますが、欧州諸国のそれは若干乏しいと思われます。
そこで、ドイツにおける①規制改革と②行政評価について調べてみました。
ぜひご一読いただければ幸いです。

①ドイツの規制改革
ドイツで行われた主な規制改革を5つ、まとめました。以下の通りです。
2006年:第三者機関として規制の品質チェックを実施する「国家規制改革推進機関(NKR)」の設置
2007年:連邦政府が、2011年を達成期限として「行政手続コスト(Administrative burden Costs)25%削減」を目標に掲げる(2012年に達成、約1300億円の削減)
2012年:行政手続コストがどれだけ増えたか/減ったか を数値化する「行政手続コスト指標(Bureaucracy Cost Index)」の導入(後述)
2015年:1つ規制を作ると 1つ規制を廃止する「One-in One-outルール」の導入(イギリスではThree-out、トランプ政権ではTwo-out)

2014〜2020年:中小企業を対象とした「官僚主義削減法(Bürokratieentlastungsgesetz)」を施行(第一次〜第三次)
 →税務上の書類保管における簡便規定や賃金税申告の一部簡素化が、 “法律として” 定められています。加えて、2020年から施行された「第三次 官僚主義削減法」の正式名には「とりわけ中小企業の負担軽減(Gesetz zur Entlastung insbesondere der mittelständischen Wirtschaft von Bürokratie)」と記されており、強い規制から解放された、よりビジネスしやすい環境をつくることが目的とされています。

第三次 官僚主義削減法(ドイツ語)

②ドイツの行政評価
日本では、数名の総務省行政評価局職員によって行政評価が実施されています。一方ドイツでは、毎月中旬に「行政手続コスト指数」が公開されています(2012年1月1日のコスト指標を100として、その基準に対する行政手続コストの増減を計算)。
指数の情報源となっている行政負担コストの詳細は、ドイツ連邦統計局(Destatis)のHPで一般公開されており、透明性の高い指標と言えるでしょう。

行政手続コスト指数(英語)

ドイツ含めOECD諸国では、抜本的な規制改革が多く実施されています。
国政であれ地方自治であれ、費用対効果を数値として「見える化」されなければなりません。

国政では数値化された行政評価やエビデンスベースの政策、地方自治では労働組合との交渉の透明化・補助金申請のデジタル化・議事録の公開など、より体系的な規制改革が望まれます。

 
最後に、Better Regulation Unitの一員として行政手続き簡素化に貢献した シュテファン・ナウンドルフ氏のインタビュー記事を引用します。

(インタビュアー)
 2006年に脱官僚と「ベター・レギュレーション」のプログラムが導入されて以降、連邦首相府でお仕事されていますよね。仕事や事務所のタスクはどう変化しましたか。

(ナウンドルフ氏)
 大げさな表現かもしれませんが、最初はひどく貶されました。省庁の職員は、私たちが立法を阻害しようとし、無責任な規制緩和を目指しているとして非難しました。でも今は違います。(中略)前向きな進展として挙げられるのは、法律と行政の問題、かつ経済と市民の問題に対する理解が深まっていることです。
 私たちの仕事も変化しました。当初は官僚によるコスト調査が主なテーマでしたが、今では多種多様なテーマがあります。これは相互の学習プロセスや絶え間ない発展であり、staatslaborのような組織(シンクタンク)と共に経験交流や知識交流することによって恩恵を受けています。これは良い兆候です。(拙訳)

原文(ドイツ語)、スイスのシンクタンクStaatslaborによるインタビュー