宮島訪問税導入に反対すべき3つのポイント〜予算・決算の分析から〜


世界遺産の宮島を持つ廿日市市にて、宮島訪問税なる新税の導入が議論されている。

名目は、観光客が増えてきたため、観光客に対応する行政需要を観光客に負担してもらうとのことだ。

しかし、私は以下の理由でこの税の導入に反対だ。

【ポイント】

①人件費が同規模の他自治体より有意に多い。行政改革が不十分ではないか

②一般会計からハコモノ行政への補填が目立つ。ハコモノの経営改善と廃止が最優先課題ではないのか

③謳っている目的とは違い、上記2点の不都合な真実を覆い隠すための増税ではないのか

確かに、2007年に300万人を突破して以降、2019年には465万人になるなど、宮島への観光客は増えている。

ただ、日経新聞の記事にある通り、そのほとんど、約9割は日本人観光客であり、

東京や京都や大阪などの外国人観光客が急増している地域とは事情が違う。その点に留意が必要だ。

来島者数一覧表 (PDFファイル 120KB (廿日市市観光公式サイト)

宮島の来島者、過去最高に 450万人超える見込み: 日本経済新聞 2017年12月3日

そしてその行政需要がどれほどのものであるのか、議会に対して説明が行われた。

説明資料はリンクから読んでいただきたいが、

①宮島おもてなしトイレという、サービスエリアのような豪華なトイレの整備

②島へ渡る玄関口の宮島口周辺の渋滞対策

③フェリーの旅客ターミナルの改修・維持管理

以上3点を中心とした需要を賄うためのものであると説明されている。

説明資料((仮称)宮島訪問税について) (PDFファイル 6.44MB)

しかしながら、この宮島訪問税は法定外普通税、つまり宮島に関すること以外にも使えてしまう税金になる見込みとのことだ。

税の目的と税の使途が合っておらず、税の目的が単なる”言い訳”なのではないかという疑問が湧いてくる。

そこで、廿日市市の予算・決算を分析していると、全く別の問題点が見えてくる。

まず過去の決算について、総務省の決算状況調(性質別)を利用し、近隣で規模の近い尾道市・三原市との比較に加え、全国平均との比較を実施した。

平成29年と30年については、廃棄物処理施設の新設で、29年は一般会計の10%、30年は25%を占めているため、単純比較は難しいが、

他自治体に比べて人件費比率が2〜3%高く、人件費の多さが課題と見受けられる状況だ。

予算の2〜3%、つまりおよそ10〜15億円が見直し可能な数字ではないか、という疑問が残る。

決算状況調
都道府県市町村別

また、予算書からは、宮島水族館会計への一般会計からの繰入金の多さが目立つ。

一般会計の予算規模530億円に対し、令和2年度は水族館運営費に対して一般会計の5%にあたる27億円の繰入金が計上されている。

水族館は設備投資が大きいため、その返済負担が大きいことが予算書からは見て取れる。

つまり水族館は大赤字を出している施設となっているわけだ。

しかし、宮島の島内にあるこの施設の来館者数は、来島者の約1割程度となっている。

水族館があるから宮島に行くという観光客がどれほどいるかは不明だが、貢献度のわりに負担が重い施設となってしまっている。

一般会計の5%以上を補填させられているこの水族館の経営改善なくして、廿日市市の財政が改善することはないのではないだろうか。

当初予算議案(一般会計・特別会計) (PDFファイル 43.58MB)

また、廿日市アルカディアビレッジや国民宿舎事業など、その他の”ハコモノ行政”でも赤字を出してきている状況だ。

アルカディアビレッジについては地元紙も負の遺産として取り上げている。

【平成の地方自治】<3>公共事業 新設から維持 … – 中国新聞

この項では詳しくは述べないが、有志で行った事務事業評価表の評価においても、あらゆる事業が費用対効果の面で惨憺たる結果であった。

つまり、今回の宮島訪問税について、あらゆる理由を並べ立てているが、

①人件費が多く

②ハコモノ行政に失敗している

市の放漫財政の尻拭いなのではないか、という疑問がぬぐえない状況である。

この不透明な状況で、実態を知らぬ観光客に対して、知らぬ間に負担させるような税の新設が認められて良いのだろうか。大いに疑問である。

この疑問について市長・市役所はどのような説明をするのか。疑問が解消されぬ間に強行することがないように厳しく監視していきたい。

また、この件について議会で議員がどのような追及をしていくのか、議員の力量と良識が試されているのではないだろうか。

この件は廿日市市だけの問題ではなく、納税者全体の問題でもある。

放漫財政のツケをいつに間にか外部者が払わされることが日本中で横行すると、進めるべき行政改革が進まない懸念がある。

そして、あらゆる増税へとつながり、民間経済を圧迫し、さらに税収が減る、という悪循環に陥ってしまう。

全ての納税者が行政を厳しく監視する必要があることを、改めて感じさせられる案件である。